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演出ノート 乗ってはイケナイ電車
- 2007.03.09 Friday
- 演出家 松本こうどう ■演出ノート ■業界こぼれ話
- 22:52
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- by 演出家 松本こうどう
ロケ現場での撮影はいつも忙しい・・・
制作・演出 松本こうどう
ついこの間乗った電車は、ホントは乗ってはイケナイ電車であった。
確か、平日の朝8時30分過ぎくらいであった。編集作業に向かうために、地下鉄「国会議事堂」駅で乗り換えて、小田急線に乗り入れている千代田線に乗る予定であった。
千代田線のホームに降り立つとちょうど電車が入ってきた。一番前の車両に飛び乗った。駅員がいたが別段何も言われない。あたりまえである。電車に乗るのに駅員に何か言われるワケがない。だが、今から思えば一言何か言って欲しかった。
車内は非常に空いていた。立っている人はおらず、座席も座っている人で3割程度だけが使用されている感じである。言うなればガラガラの電車であった。
座席に座ってボヤっと周りを見ていた。小田急線にそのまま乗り入れている電車だったので、確か「代々木上原」から地上に出る。しかしまだ地下鉄路線なので窓からは景色は見えない。
ふと気がつくと目の前の女性が化粧をしている最中である。コンパクトの鏡を覗き込んで一生懸命(のように)に口紅を塗っている。最近、問題となっている電車内での女性の化粧である。目をそらすと、何と左に座っている女性がこれまた一生懸命にアイシャドーを塗っている。アレッと思っていると、私のまわりだけでも5,6人の女性が、そして車内全体では何と3分の1くらいの女性が化粧をしている最中であった。それも堂々とである。
どの化粧中の女性もまわりの目などは一切気にしていない。化粧中でない他の女性たちも化粧中の女性たちのことを気にしている感じでもない。女性エキストラの控え室か女性化粧室の中にいるような気になってきた。「何だかヒドいなぁ」と独り言を言ってまわりの化粧女性に不快な視線をおくる。だが、この化粧女性たちは一向に気にしない。
これはヒドい。マナーもヘッタクレもあったもんじゃない。「これじゃ女性専用車両ではもっとヒドいだろうな」と思いながら何気なく窓に目をやるとピンク色の大きめのステッカーが貼ってあり、「女性専用車両」と書いてある。今までも「女性専用車両」と書いてある車両に日中に乗ったことがあるが、導入時間とは違っていたので気にしたことがなかった。
だが、今回は朝である。もしやと思いステッカーに書いてある導入時間を見てみる。「平日7時10分から9時30分の千代田線綾瀬駅及び代々木上原駅を発車する列車」と書いてある。慌てて腕時計を見てみる。まだ8時40分くらいである。あらためて車内を良く見るとほかの乗客はみんな女性である。女性しか乗っていない。どうりで・・・。そう、私は「女性専用車両」に乗って堂々と座っていたのである。
マズいなと思う。もう数駅は「女性専用車両」に乗っている。冷静に考えて見る。その結果、さり気なく隣の車両に移れば良いと言う結論を出す。しかし1両目の一番前の方に座っているので、2両目である隣の車両に移動するには沢山の女性の前を通過しなくてはならない。となりの車両への連結部を見てみる。たった車両1両分の距離なのに永遠に遠い距離に見える。そんな長い距離を歩く勇気はない。
そうだ、次の駅で降りよう。元警視庁刑事の北芝謙さんによると、こういう場合は警察用語でその場からの「離脱」と言うそうである。電車の中で痴漢の冤罪をかけられたときは、その場から去るのが良い。だが悪いことはしていないから決してその場から「逃げて」はいけない。「逃げる」のは悪いことをしたときに使う行為である。だから、その場から「逃げず」に「離脱」するのであると言っていたのを思い出した。
私は何も痴漢に間違えられたわけではないが、いきなり他の車両に小走りで移動したら、いらぬ疑いをかけられるような気がする。そうでなくても私に気がついた女性たちからの視線に耐えれない気がする。だが、すぐにこの場から「離脱」したい。車掌に言いつけられる前に「離脱」したい。
早く次の駅に着かないかと気をもむ。女性たちの化粧は続く。私は視線を逸らすが、地下鉄路線だから窓の外を見ているポーズを取るというわけにも行かない。目をつぶってみる。だが、寝たふりをするのはワザとらしい。すぐに目を開ける。情けないが、先ほどとは打って変わって自分の態度が急に小さくなる。今度は(というか最初からだったのだが)こちらの立場はどう見ても悪い。居心地が悪いどころではない。
時間にして数分のはずだが、次の駅まで10分はかかったような気がした。
次の駅を知らせる車内アナウンスが入る。電車が止まる。ドアが開くのが待ち遠しい。やっとドアが開く。ここで走り出してはいけない。駆け込み乗車ならぬ駆け出し下車はいけない。走ると誰かが私の背中越しに「この人痴漢です」と叫ぶような気がする。さり気なく座席から立ち上がる。ゆっくりとドアに向かう。落ち着いているのではない。内心はドキドキである。ほかに下車する人も乗車してくる人もいない。気のせいか背中に沢山の視線を感じる。ステージに初めて立った役者のように緊張する。
ホームに降り立つ。ここでも走ってはいけない。ゆっくりとホームの中程に進み、立ち止まる。用もないのに携帯電話を取り出して留守電をチェックするふりをする。電車の方をさり気なく振り返る。誰もこちらを見ていない。ドアが閉まる。電車が走り出す。何も問題はなさそうである。長い緊張のときが終わる。やっと安心して次の電車を待つ。
偶然にも私は「女性専用車両」の内部を見たことになった。「女性専用車両」の実態をつぶさに観察して見たのである。「潜入取材」である。ここで3つの疑念が頭をよぎった。
まず始めに、この路線のこの時間に果たして「女性専用車両」は必要なのであろうかという事。ラッシュで混みあっている反対方向に進む電車と違って、郊外に向かうこの路線はガラガラである。それでも「女性専用車両」を設ける意味がわからない。
次に「女性専用車両」はもっと目立つように車両全体をピンク色にしてもらいたい。ドアや窓のピンク色のステッカーだけではわかりにくい。
そして最後に「女性専用車両」があるなら「男性専用車両」もあるべきである。これは何も男女平等と言う意味ではない。
女性が平気に「女性専用車両」で化粧をするなら、男性も朝の電車内で電気髭剃器を使って自由にヒゲを剃りたい。出社前に車内で爪楊枝で歯をほじりたい男性もいるかも知れない。痴漢の冤罪の心配をせずに車内で自由に手足を伸ばしたい。だが、これらは女性客がいるとやりにくい。「女性専用車両」並みに男性にも車内での自由と安心がほしい。
「女性専用車両」はいつから「女性の自由空間」となったのであろうか。東京メトロのホームページには「朝の通勤・通学ラッシュ時に女性のお客様に、安心してご利用いただくことを目的に女性専用車両を導入しています」とある。確かに「女性専用車両」を利用している女性たちが化粧をするのは「女性のお客様に、安心してご利用いただくこと」の目的に合っている。彼女たちは「安心して」化粧をすることで「女性専用車両」を「ご利用」している。これは、東京メトロの趣旨通りである。
本来は「痴漢・盗撮・酔客による嫌がらせ等の迷惑行為への防止対策として女性専用車両を導入」とすべきであろう。それを「女性のお客様に、安心してご利用いただくことを目的に女性専用車両を導入」とするから「女性専用車両」は「女性の自由空間」になるのである。
女性にとってはコレで良い。だが、男性にとっては痴漢の冤罪の心配はつきないし、安心できる自由な空間が車内にない。早く、「男性のお客様に、安心してご利用いただくことを目的に男性専用車両を導入」して欲しい。
2007 松本こうどう
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