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  • 2007.07.28 Saturday
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業界こぼれ話 「お冷」の語源は英語?


冷たい水を飲んで考える・・・

制作・演出 松本こうどう

冷たい飲み水を「お冷(おひや)」という。「冷(ひや)」と言う場合もある。

考えるとチョット変わった言い方である。飲食店などで「お冷ください」と言うと「冷たい水をください」という意味である。どうして冷たい水を「お冷」とか「冷(ひや)」と呼ぶようになったのであろうか。「冷水(ひやみず)」の略語なのであろうか。語源を紹介するテレビ番組用に考案したボツネタを紹介する。

時は1874年(明治7年)にさかのぼる。東大がまだ東京医学校と呼ばれていた頃から日本の食文化には変化が始まる。そして明治28年。それまで主流であった飯屋や蕎麦屋などの日本の飲食屋に文明開化の波が押し寄せてきた。東京の銀座に西洋料理屋なるものが登場する。今で言うレストランの洋食屋である。

そこで日本人はポークカツレツなるものを生まれて初めて口にする。当時「とんかつ」はポークカツレツと呼ばれていた。「とんかつ」と呼ばれる様になるのは、後にポークカツレツが和食になってからである。

その西洋料理屋では、飯屋や蕎麦屋で出していたお茶は合わないので、西洋式に冷たい水をコップに入れて出していた。ちなみに現代でも洋食屋で出されるポークカツレツには水は合うが、お茶では合わない。だが、同じ食材なのに和食の「とんかつ」ではお茶が合うのはおもしろい。

西洋式の料理屋と出会ったばかりの当時の日本人にとっては、透明なガラスコップに入った冷たい水は珍しかった。何しろ家庭にはまだ電気冷蔵庫がない時代である。家では冷蔵庫で冷えた水など飲めない。西洋料理屋では椅子に座り、白いテーブルクロスの上の洋食とともに冷たい水を戴く。それだけで充分に文明開化を感じていた。

さてある日、ひとりのおばあさんがこの西洋料理屋に入って、入口のそばのテーブルに案内された。このおばあさんにとっては西洋食は初めての経験である。知っている蕎麦屋とは違い勝手がわからない。何の料理が出るかも知らない。まさしく西洋文化との出会いである。

テーブルについたおばあさんは、給仕(ウエイトレス)が注文を取りに来るまでの間、まわりのテーブルにいる客に出される西洋料理を眺めていた。テーブルの上の料理の横にはコップに入った冷たそうな水があり、客は美味しそうに飲んでいる。おばあさんにとってはこのコップに入った水も珍しい。

そこにイギリス人(一説にはオランダ人)と思われる夫婦が入って来て、同じように店の一角のテーブルに案内された。西洋の香りのする銀座の洋食屋に外人が入ってきた。洋食が始めてのおばあさんはこのイギリス人夫婦の一挙一動を注意深く見守る。おばさんにとっては西洋料理屋での本場の振舞いを目の当たりにして見ているような気がした。店は非常に混んでいた。そのためか、給仕はおばあさんにもイギリス人夫婦にも中々気がつかない。

そこでイギリス人の旦那が給仕に向かって手を上げ、Look Here(「お〜おい」と注意を促す言葉)の意味で「Here!(ヒヤ)」と大きな声をかけた。これでイギリス人夫婦に気がつぃた給仕は銀色の金属製のお盆にのせた、コップに入った水を持ってやってきた。

コップに入った水をテーブルに置き、イギリス人夫婦から英語での注文を緊張しながら聞く給仕。その光景を見たおばあさんは「コップに入った水」は「ひや」と言うのだと思ったに違いない。おばあさんにとっては「ひや」は英語か日本語かなどと言う次元ではない。西洋文化との出会いで聞こえた今まで知らなかった文明の言葉が「ひや」であり、意味は「西洋料理屋で出されるコップに入った水」であった。

そこでおばあさんも同じ様に手を上げ、丁寧に「お」をつけて、「おひや」と給仕に向かって声をかけた。文明開化の頃から日本人は、特に舶来のものには不自然であってもすべて「お」をつけて尊敬の念を表した丁寧な言葉とした。例えば「おビール」とか「おフランス」のようにである。

イギリス人夫婦から「ヒヤ」と言われ緊張していた若い女性の給仕。おばあさんからは「おひや」と言われた彼女はこの「ひや」から、「そうか、先ほどは外人さんから冷水(ひやみず)の事を言われたのだ」と解釈した。おばあさんは「ひやみず」に丁寧に「お」をつけ、「おひや」と略したのだと思い込んだ。おばあさんが思っている解釈とは違ったが、こう感じ取った給仕は、おばあさんに向かって笑顔で「コップに入った水」を運び、「おひやをどうぞ」と応えた。

この「おひやをどうぞ」の「おひや」と言う言葉は他の給仕たちにも好評であった。「お冷」と書かれ、銀座では誰もが使う言葉となった。東京だけでなく、銀座を訪れる地方からの客も「お冷」とか「冷(ひや)」と言うようになり、やがて日本中の西洋料理屋で使われる言葉となった。これが「お冷」の始まりとされている。

「お冷」は全く意味の違う英語の「Here」を誤解して使った日本人の「おひや」が、さらに日本語の「冷水(ひやみず)」と勘違いされて生まれた言葉であった。語源が「Here(ヒヤ)」であるので、「お冷」の「冷」は当て字だという学説もある。また、言語学的に「お冷」そのものが外来語であると見なされる可能性も高い。

最後に断っておくが、これは私が考えた話(作り話とも言う)である。想像した話だから決して人には言わないで頂きたい。本気にする人がいたら困る。特に国語学者などには絶対に言わないでもらいたい。

コピーライト2006 松本こうどう

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  • 2007.07.28 Saturday
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