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  • 2007.07.28 Saturday
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業界こぼれ話 あるテレビ局のバイトの子


海外との交渉はいつも24時間体制

制作・演出 松本こうどう

ある地方大都市のテレビ局にデスクワークのバイトの女の子がいた。

確か21歳であった。バイトと言ってもフリーターみたいな感じではなく、東京で短大を卒業してその地方の実家に戻り、親のコネでテレビ局で働いているチョットしたお嬢さんである。

だから、一応に常識もあり礼儀正しい。容姿も悪くない。素行も悪くない。何も特段の問題もない子である。だけど、やはりネットとメールの時代に育った世代の子である。知らないモノを扱う時の発想が我々の想像の域を超えていておもしろい。

知らないモノと言ってもファックスのことである。彼女はファックスを見たことはあっても使ったことがない。ファックスがどういうものか良くわかっていない。ファックスは紙に書いたものを相手のファックスに送信する機械だと知っていても、「送信」の意味が良くわかっていない。

我々の世代では、ダイヤル回線の黒電話から始まり、デジタル回線のプシュホンを経て携帯電話というものを経験してきている。ビジネスではその過程でテレックスが主流であった時代からファックスが登場する時代に移行している。そしてそのファックスはやがてどこの家庭にも置かれるようになった。

だが、時代は急速に変化する。今はどこの家庭にもインターネットが入り込み、ネットの添付であらゆる書類が送信できるため、今度はファックスは家庭から姿を消しつつある。でもビジネスでは相変わらずにファックスも現役である。テレビ関係の仕事でも企画提案書や台本などは相手先にはファックスで送る場合が多い。

彼女はそんなワケで家では使ったことがないファックスをテレビ局で初めて使うことになる。別に大したことではない。初めてインターネットを使うよりよっぽど簡単なことである。だが、彼女にとっては違う。ファックスの使い方は簡単でも、どうして紙に書いたものが相手側に送信されるのか良くわからなかったらしい。

携帯電話世代の若者は「線のついていない電話」を「電話」として普通に受け入れる。しかし、我々の世代では「電話」と言えば必ず「線」がついているもので、携帯電話みたいなものは「電話」ではなく、無線機と呼んだ。だからファックス通信と言えば、紙上に書かれた内容が信号化されて電話回線を通して相手のファックス機械に送られ、信号化された内容を受信した相手のファックス機械がそれを解読して紙上に印刷するというのは何となくわかる。そして携帯電話に接続されるファックスなどではそれが「回線」ではなく、「電波」を使って行なわれるのだと。

しかし、最初から携帯電話のメールや光ファイバー通信のイメージで「送信」というものをとらえている世代にはこのプロセスは理解し難いようだ。ネットのメール送信のように、画面上だけの「送信」を体験している彼女には「紙」が「送信」されるという現象を画面上の「送信」と同じ様に思ったらしい。インターネットでメールを送信すると、送信された瞬間に画面上から消えて送信済となる。あの画面上から「消える送信」が彼女にとっては「送信」のすべてである。だから、彼女にとっては「消えない」と「送信済」ではない。

ある日、彼女の上司が支局にファックスを送るように彼女に頼んだ。人の良いこの上司は丁寧に彼女にファックスの使い方を説明する。送信する紙のセットの仕方から相手番号の入れ方、そして最後に「送信ボタンを押すと送信完了」と教えた。さすがにネット世代の子である。団塊の世代とは違って、「機械」の使い方の呑み込みが早い彼女はすべてを理解した。ただし、「送信」の意味以外はである。

早速ファックスを送る彼女。だが、どういうわけか何度も同じ事を試している。相手に通じないのか何度も送信を試みている。時折、自分のデスクから心配そうに目をやる上司。そのうち相手先の支局からこの上司に電話がかかって来た。

支局からの電話は、なかなかファックスが来ないという苦情ではなかった。何と、何枚も同じファックスが送られ続けているという苦情であった。びっくりして彼女に駆け寄り、「何やってんの?」と聞いた上司に彼女は困った顔で答えた。「すみませ〜ん。何度入れても紙が反対側から出てきちゃうんです」

彼女は「紙」そのものが回線を通って相手側に「送信」されるとでも思っていたのであろうか。やはり彼女にとっては「紙」が「消えない」と「送信済」ではなかった。上司は呆れたが、「最後に送信ボタンを押すと送信完了」とだけ教わった彼女にしてみれば、当然の発想であった。

この彼女、上司から更なるレクチャーを受け、ようやくファックスの「送信」を理解したと思われた。だがその後、相手先に閲覧後に他への転送を頼むファックスを送ったときに、相手側の分と転送用の分として同じ原稿を2枚送信したというから、やはり彼女にとってはファックスの「送信」は難しいようだ。

これを見た件の上司は、「彼女はどうやら応用問題は苦手らしい」と言っていた。

コピーライト2006 松本こうどう

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  • 2007.07.28 Saturday
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